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2011年2月13日日曜日

任天堂を3DSへ駆り立てたもの

任天堂のDSは販売数的には勝ちハードである。性能がPSPに比べてチープなのは発売当初から変わらない。任天堂は恐らく当初はもっと短いサイクルでの ゲーム機の発売を考えていたはずで、DS、DSLite、DSi、DSiLLと4回もハードを更新して延命できるとは考えていなかったはずだ。(しかも微 妙に値上がりしている)

 しかしながらDSは消費者のハートを鷲掴みにし、2010年末においてもかなり健在な売れ行きを示している。単 年ではPSPが逆転の兆しを見せているが、DSが2010年の負けハードかといえばそんなことはない。誰が買うのかと個人的には思うDSiLLも、堅調に 販売を伸ばし、実際購入者を見かける事も多い。

 セオリー通りいけば、任天堂はDSの販売を継続して、3DSなんか発売する必要がなかっ た。少なくともSONYの出方を待って、それから動いても良かった筈である。実際問題、WiiについてのHD化の不満の声は、ユーザーとアナリストから噴 出していたものの、DSについては新型LLの存在もあり、売れ行きも堅調だった。ユーザーは、DSよりWiiの次世代化を待ち望んでいたのである。

 「なんで、じゃあ任天堂は3DSを出したの?」という事を今日は考えてみたい。

  まず、Wiiの次世代化についてだが、任天堂は恐らくWiiの次世代機については投げてる。色々な理由があるが、最大の理由は儲からないからだ。 WiiHDを出しても不思議はないが、出さなくても不思議はない。「WiiHDは任天堂が儲かる話ですか?」、と聞けば、誰もが「微妙」と思うのではない か。なら、任天堂は出さないだろう。

 PS3に対抗するWiiの次世代機を開発するというのは立派な目標だけれど、任天堂のゲーム機が受 け入れられる想定価格で必要な機能を備えたハードを開発・販売し、利益を上げるまでソフトを開発し、PS3ないしその後継機との競争に打ち勝つ・・・のは 容易ではない。考えただけで目眩を起こすような難事業だ。

 Wiiでのソフトウェア開発ですらコストがかかるのに、HD化した環境でソフトウェア開発を行うのは難易度が高い。しかも、普及するかどうか分からないハードを開発し、それを売る努力たるや想像を絶する。Wiiが売れたのは、自社ブランド価値以外に低価格の安物だったからだという事を任天堂は他社以上に強く認識していると思われる。

  特に任天堂はハード屋ではないので、さらに一段ハードルは上がると見るべきである。新規ハードの開発は難しく、巷で言われるように、既存WiiをHD出力 できるものなら発売できる可能性は高いが、儲かるかどうかと言う点が最大の障害になるので二の足を踏んでいると思われる。WiiHDに関してはセンサー範 囲や、セキュリティ対策の問題もあるかもしれない。既存のWiiプラットフォームをてこ入れするか、刷新するかの選択肢があるとすれば、諸問題からそのど ちらの道にも問題があると考えていると思う。

 それに対して、DSは売れた。据え置きのゲーム機が1世帯に1台売れればよいのに対して、 DSは1世帯に1台からスタートして、1人1台を達成しつつあった。ハードの販売台数による利益は勿論、ソフトウェアの最大販売数も押し上げた。国民的 ゲームになれば、ハードもソフトも売り上げの桁が変わることを実感したはずである。また、据え置き機に対して、液晶内蔵のDSは住環境の影響が少ない。 TVがなければWiiは遊べないが、DSは単体で遊べるのである。

 携帯ゲーム機を無線で複数人がつなげて遊ぶという形に進化したのは DS/PSPからで、そこに遊びの革新があったと見るべきである。少なくとも任天堂はその点を最重要視した。この為に、携帯型ゲーム機の市場を制すること が任天堂の至上命題になった。ソフトウェア販売市場としてもDSはWiiよりはるかに手堅い市場のはずである。任天堂として注力するべきと考えても何ら不 思議はない。むしろ当然と云える。

 しかし携帯ゲーム機市場に注力することと、新プラットフォームの3DSを投入することはイコールではない。前置きが長くなったが、今日は何故、任天堂が3DSに走ったかを考えてみる。

  任天堂のことを考えるとき、任天堂は常にソフトウェアから入る点を考慮すべきだ。任天堂のキーマンはいずれも優れたゲームの開発者ないし、プログラマーの 経験を持つ。宮本氏もそうだが、社長の岩田氏はマザーのエピソードで知られるように優れたプログラミング能力を誇っていたようだ。シャープの電卓用液晶か らゲームウォッチが生み出されたように、ハードウェア的な制約がある中で、最も面白いソフトウェアを作ろうとするのが特色である。スクエアエニックスとは 実に対照的である。

 ファミコンのマリオやドラゴンクエストは容量の制限が厳しく、使い回しを余儀なくされたようだ。現在ではあれは美談 なのだが、10人中8人は「こんな環境じゃ仕事が出来ない」とハード構成を変えて、ファミコンのパワーアップを要求するだろう。(実際ファミコン後期では ROM内蔵等でこの手の問題に対応したソフトが出ている)

 SONYはこの手の職人技がソフトウェアより、まずハードウェアに出るので、 PS3の内部構造は賞賛された。(家電的な意味で。)ただ、いつも配線は見事で部品は豪華だが、メモリー容量をケチるという本末転倒ぶりを発揮しソフトウ エア職人を苦しめることになる。が、それはまた別の話。

 任天堂はハード屋ではないので、3DSの規格策定にあたっては「最低限これくら い動いてくれればSONYに対抗できる」と考えた筈だ。ハードに対する要求は最低限にして、後はソフトウェアで対抗するという発想である。実際、任天堂の ゲームはDSでもNGPに対抗可能なレベルだと思うので、その発想はあながち間違いではない。任天堂はどこのゲーム開発会社よりもソフトウェア志向だと考 えてしまっていい。ハード屋のSONYとは全く別種の発想をする。ハードに関しては、かなりセコい。

 「今回、3DSのライバルはゲーム 機だけではない」と任天堂の幹部が発表したと伝えられているが、それはNGPに対する悔し紛れの発言ではなくて、彼らの本音だと思う。DSの牙城を脅かし たのはPSPではなく、DS自身の問題点と、スマートフォンの躍進があると私は思う。

 スマートフォンの何が問題なのかと言えば、性能と 普及が急拡大していることに問題がある。しかも恐ろしいことにDSの性能とスマートフォンの性能は被る。2画面以外の、無線LAN、タッチパネル、処理速 度といった点では既に互角か抜かれている。液晶にしたところで、スマートフォンの方が高解像度なら2画面に拘る必要もない。しかもスマートフォンはその本 質から常時接続が可能で、ゲームのDL配信も当然のように行う。しかも進化の速度が急なので、1~2年で性能面で大差をつけられる可能性が高い。OS越し にゲームを走らせるスマートフォンと、OSを経由せずにゲームを走らせるDSでは同じハード性能ならDSの方が有利だろうが、スマートフォンのハード性能 は既にDSを起き去りにしつつある情勢だった。

 DSにもスマートフォンへの優位性はあった。(マジコンを別にすれば)操作系である。が、それはPSPと何ら変わりなく、アナログスティックがない分、不利であった。スマートフォンに対抗しようとして、ライバルを持ち上げても仕方がない。

  この時期の象徴的な出来事として、iPhoneやiPadの躍進がある。世界的に低価格ゲームはスマートフォンの牙城となりつつあった。しかも、 iPhoneはDSの時代を象徴するソフトである「ラブプラス」を出してきた。任天堂や大半のユーザーにとって「ラブプラス」はそこまで拘るソフトではな かっただろうが、DSより綺麗で安価なソフトウェア提供がなされ、特にDSからの移植によるデメリットが表面に出てこないのは驚天動地の大事件だったに違 いない。しかも移植がスムーズな早さだったので、第二第三のラブプラスが出ても不思議ではないと警戒したはずだ。ラブプラスは社会現象にまでなった一方 で、かなりニッチな大人向けゲームなので、子供向け市場の雄である任天堂DSを脅かしたとは云えないが、iPhoneをゲーム市場として内外に強く認識さ せるきっかけとなった。

 任天堂はイニシアティブを取らなければ、スマートフォンでのゲーム機コンソールにサードをさらわれる危機に直面 した。DSはマジコンによるソフトウェア被害もあって、中堅的なソフトウェアが売れない市場となっていた。勝ち組ハードDS自身の問題点の大きな部分は、 性能不足とマジコン被害で、その2大弱点が解消された新しいデバイスがスマートフォンだった。しかもゲーム機と異なるジャンルのスマートフォンは急速にそ の数を伸ばした。DSでソフトを開発する唯一無二のメリットはDSの普及台数で、ヒットすればでかい市場だったことが大きい。しかし潜在ユーザー数では世界に羽ばたくスマートフォンの方がDSをその展開速度で圧倒していた。DSの得意とする昔ながらの2次元ゲームの開発は、スマートフォンに完全移行しても不思議ではなかっただろう。サードパーティーの開発会社は、任天堂が対策に動かなければ新天地スマートフォンに向かってしまうかもしれない。

 ここに来てDSに胡座をかきたかった任天堂も動 かざるを得なくなった。命題となったのは(3DSの仕様から逆算するに)、旧世代機になるであろうPSPに勝るハード性能、アナログスティックの装備、 DS互換、2画面&タッチパネル維持、カメラ、スマートフォンで採用不可能な新たな付加価値=3D表示、となる。DL配信、マジコン対策も命題としてあったはずだ が、その点についてはまだ見えないので割愛する。

 少なくとも任天堂はSONYがPS3の逆ざややPSPgoで体力を削り、新型ゲーム機 を投入しないか、情報を掴んでいてもXperiaPlayの開発までで、アンドロイドでのゲーム配信ビジネス位までしか予測していなかったようだ。(それ すら予想してなかったようにも思えるが)SONYの次世代PSPが高機能であれば有るほど、ゲーム開発に障害ありとして切り捨てていたのかもしれない。少 なくとも、既知の敵SONYは任天堂にとって恐ろしくない存在として嘗められた可能性が高い。

 3DSは上記の理由で生み出されたので、ローンチと呼ばれる本体同時発売ソフトは有力サードに配慮した内容になった。SONY陣営と言うよりは、スマートフォン陣営に開発会社が流れないようにする為である。結果、見事に任天堂以外売れないラインナップになりつつある。

  勝ち組ハードはフルモデルチェンジの必要がない。ワンダースワンカラーとゲームボーイアドバンスの戦いはちっぽけな戦場だったかもしれないが、アドバンス は市場で圧勝した。DS登場まで長くアドバンスシリーズの時代が続くことになる。といっても3年半程。DSは2005年頭始動としても丸5年は経過した。 この5年は長いが、この時期に停滞をしていたものは世界的にも多数見られるし、ゲーム機ビジネスの立ち上げと収益化迄は従来より長期間化していたので、長 いようで短いと言うことは出来る。本体のマイナーチェンジも延命の理由となった。

 ただし5年間ゲーム機市場は足踏みをしていたかもしれ ないが、スマートフォン市場は誕生から躍進までを遂げた。この事が、任天堂が次に進む決心を固めた最大の理由である。NGPについては恐らく完全には予測 できていなかったので、3DSの戦略が今後破綻する可能性はある。巷では3Dブームがすっかり去っているが、3DSでブームを再現できるかどうかが一つの 試金石になるに違いない。

 私は3DSを買ってしまったし、そのことを別段後悔してないが、3DSは任天堂が思うほどの成功を収めてくれるか微妙な雲行きになりつつある。しかし任天堂はマイナーなときの方が良い仕事をするし、ニンテンド64は名機だった。3DSでは、ニンテンド64的な良さが期待できるかどうかは分からないが、任天堂自身が強くニンテンド64との関連を意識してそうなので、期待できるかもしれない。

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