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2011年4月8日金曜日

任天堂のきた道

 期待の新ハード3DSが低調で、Wiiが死に体の今、任天堂は沈黙のまま年末商戦まで逃げ込む構えに見える。本当は夏に一山当てたいところだし、春発売予定のソフトも多数あるはずなのだが、直近に迫ったパイロットウイングスも、先行している海外の評価を見る限りでは期待できず、情勢を挽回する勢いはありそうにない。今はただひたすら、3DSを買ってもらえる強力ソフト開発に注力するほかない。

 今の任天堂を評価するなら、拙速が完全に裏目に出たということになる。ライバルNGPが震災の影響で出遅れそうなことくらいが明るい材料だが、むしろゲームハードの買い控えが長期化するという意味では悪材料かもしれない。震災と実力不足で、3DS先行逃げきり戦略は崩壊した。NGPが遅れても、NGPが売れても、3DSは苦しめられるという苦境に陥ってしまっている。

 今の状況が何故生まれたのか種々の要因があるが、ゲーム業界における常識の中に【リセットの必要性】がある。これが任天堂の行動原理を説明する上で重要になる。

 【リセットの必要性】とは、どんなに栄華を極めたハードであってもその終わりは唐突に訪れる、というもの。アタリショックはもはやゲーム業界の神話とでも呼ぶべき存在だが、それを防ぐには、自らの手で現行ハードを葬り去るしか無い、という理論及び解釈になる。

 任天堂はその理論に従い、自らの栄光を捨てるための新ハードを投入したと思われる。それが過去のスーファミであり、現在の3DSではないだろうか。つまり「DSを自らの手で壊し、3DSによる立ち上げを狙ったが失敗した」というのが現状ではないかと思われる。

 任天堂はファミコンからスーパーファミコンでその実践に成功し、王者ハードの座を自社ハード間で受渡した。結果としてその成功による過信が、SONYとの軋轢とPS時代を築いてしまう事になる。だが、ゲームウォッチにより開拓され、ゲームボーイにより再開拓され延々と続いてきた携帯ゲーム市場は、他ハードの侵食も少なく、任天堂が牙城を守り続けてきた。遂にはDSで日本的大ブームにまで成長した。

 任天堂はファミコン、スーファミ、Wiiのイメージが強く、据え置きゲームの王者という扱いだが、スーファミ末期以降はゲームボーイの系譜という携帯ゲーム機に逃げ場が常に存在していた。また、ハード的な制約の高い携帯ゲームの方が任天堂の社風と合致し、結果を出しやすかった。

 主戦場は勿論つねに据え置きゲーム機市場だったが、携帯ゲーム機市場が任天堂の占有率が高い裏庭として存在していたことは重要だ。市場規模は小さいが、継続的な収益性で経営上計算できる存在であった事は想像に難くない。DSは結果的にPSPに対して勝利したので、任天堂の携帯ゲーム市場依存は更に高まっただろう。この辺り、任天堂のひきこもり体質、内弁慶体質と言えないこともない。

 つまり任天堂は、激戦区の主戦場での敗北は折り込めるが、携帯ゲーム市場という別の戦場では圧倒的な強者でなければ会社が立ちゆかないところまできつつある。少なくともこの数年の傾向を見る限り疑いの余地はない。実際の収益性というより、株価対策という点で重要なのだろう。少なくとも今の株価水準は維持できなくなり、失敗によって更に体力が落ち込むことになるわけだ。少なくとも、据え置き機、携帯ゲーム機の2正面作戦を維持する体力は無いのだろう。複合的巨大企業であるSONYとは、そこが決定的に異なるのだ。

 任天堂がウルトラ64以降のこの十数年戦い続けられたのは過去の遺産もあるが、携帯ゲーム市場という裏庭の存在も大きい。そこを侵食したのはSONYのPSPだったが、任天堂もDSで対抗し、勝利した。

 我々は、DS対PSPの争いを携帯ゲーム機市場の拡大という意識でいたが、任天堂にとっては自社の裏庭の防衛という側面が強かったことになる。実際、ハードとしては、DSはWii以上の普及と成功を収めた。ドラクエが発売された、しかも売れたのが成功の頂点と言って過言ではないだろう。

 が、現状を見れば分かるように、モンスターハンターで再ブレイクしたPSPはDSの魅力を翳らせた。問題はまだある。HD化や高グラフィック化が遅れた結果、任天堂のソフト開発力は大いに低下した。WiiやDSといった前世代の改良機で戦う戦略は、最初は良いのだが、改善による伸び代もなければ、開発スタッフの成長もない。アイディア勝負のゲーム開発は、既にスマートフォンで実践されてしまっている。ソフトとハード丸抱えの任天堂は、全方位に向けてレベルアップをしなければならない苦しい立場にたった。3DS先行による時間稼ぎが経営サイドの打ち出した答えで、それは必ずしも間違っては居なかったはずだが、出来上がるハードもソフトもあまりにもショボかった。任天堂は自らの巨像の大きさに判断を歪めてしまったのだろう。3DSに伸び代があるかどうか、が今の状況では重要になる。任天堂は必死にその点を模索中だろう。

 任天堂はお金を持っているイメージがある。が、実際のところ、収益性をあれだけ重視していてもハードを立ち上げ、ソフトを開発し、広告もうつ、株主に還元するとなると、結構ギリギリの綱渡りをしているのではないか。

 しかも組織の能力が疲弊し、長く続く携帯ゲーム市場で開発能力も低下してきているようだ。私はWii後継については否定的だけれど、3DSが駄目なら用意しないわけにはいかなくなるだろう。しかし携帯ゲーム機市場に比べて遙かに分が悪いのは確かだ。PS3に勝つのは不可能に近い。

 私の見る所、任天堂には3DSで勝利する道しか残されていない。最低限、自社ソフトは100万本売れる位の市場を形成しなくてはならない。3DSの現状を見る限り大変な力不足を感じるが、任天堂がWii後継を開発してPS3に勝負するより、3DSで売れるソフトを開発する方が、まだ可能性は高いだろう。

1 件のコメント:

  1. 任天堂の株価3日連続安とか、150万台販売の目標は夏まで掛かりそうだとか、色々任天堂の悪いニュースが出てきてしまいましたね~。

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