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2012年10月15日月曜日

sprint買収

 ソフトバンクによるSprint買収がどうやら本決まりになった。瓢箪から駒みたいな話だったので「企業体力に見合わないソフトバンクの勇み足か?」と考えていたのだけれど、どうもそうではなさそうに思えてきた。

私が思うに今回の話は、日本の資本投下によるアメリカのインフラ事業の再生ではないかと思う。赤字垂れ流し企業を日本に押し付け再生してもらえればいい、と考えても不思議ではない。そもそも論でいえば、日本政府や、アメリカ政府が感知しないところでこれだけ大きな買収話が持ち上がるのはおかしい。外国人持ち株比率の問題もあるという話だった。これらをクリアするのは、両国政府の協力や了承なしとは考えにくい。

 両国政府が合意していたのだとしたら話が速い。おそらく、アメリカ政府からインフラ企業に対する友好的買収の打診が日本側にあったのだろう。日本側(おそらく総務省)はそれを取りまとめ、融資する銀行や、取りまとめる事業会社(ソフトバンク)と段取りをつけた。そうでなければ、巨額の出資をあっさりと銀行団が「はいそうですか」とばかりに用立てるはずがない。

 総務省とソフトバンクといえば、プラチナバンドの割り当ての当事者である。買収されたばかりのイーアクセスもそうだ。全てが、そこから始まっていてもおかしくはない。周波数割り当てには、無償なのはおかしいという議論があった。周波数割り当ての条件として、今回のSprint買収があったのではないかという気がする。もしくは当初の周波数割り当てには関係せずとも、イー・アクセスの買収の裏には密約があったのではないか。

 イー・アクセスの買収は適切過ぎた。ソフトバンクが喉から手が出るほど欲しいものをイーアクセスは2つ持っていた。iPhone5に適したネットワークと、プラチナバンドである。私はプラチナバンドを2つも占有するのは総務省の横やり(認可取り消し)があるのではないかと考えていたが、Sprint買収をソフトバンクが行う報酬だと考えれば納得できる。総務省が仲介すれば、孫社長がKDDIを出し抜くことなど簡単だったはずだ。

 米国にとってのメリットはどうか? 円高の今、日本の資金は数倍の価値を持つ。米国内の事業立て直しに、安定して宗教や政治的なしがらみの少ない同盟国日本の資金を使いたいという思惑は強いはずだ。むしろ米国は その方法を模索していたのだと思う。

 単に専門外の銀行に金を出させるだけでは事業の再生は成功しないが、JAL再生に見られるように、企業家として優れた能力を有するグループにゆだねれば再生の可能性はあると見たのだろう。孫正義の立て直し手腕はともかく、携帯業界におけるキャリアは重視されたに違いない。赤字を垂れ流す企業なので、ダメでもともとという側面もあっただろう。テストケースとしては、勢いがある点を評価されたかもしれない。

 そう、赤字を垂れ流しているというのがこの話の最大のポイントだ。買収額については、銀行団がそれを手当てする。が、毎月の赤字額の補てんまでは含まれてはいないはずだ。当然、黒字化が目標となる。具体的な戦略は不明だが、孫流経営が期待されているのは、黒字化ないし、赤字隠しにおいてだろう。

 ソフトバンクは、世界で勝負する機会を得た上に、日本で有利な買収の成功(イーアクセス)と、プラチナバンドを取得できた。

 総務省は、アメリカからの難題にこたえてつつ、日本の携帯キャリアが世界で活躍する道を示すとともに、国内から海外にソフトバンクが注力する道筋をつけた。たとえば、日本の携帯電話メーカーが海外で販路を拡大できる可能性が期待されている。

 米国は、同盟国日本という政治的悪意が少ない外資による買収によってインフラ事業を再生ないし構築させる目途が立った。将来的に円安誘導すれば、Sprintを米国企業が買い直してもお互いに損はないことは計算済みだろう。つまり長期的にはいつかはこの円高水準は是正されるとみていい。事業再建まで赤字を垂れ流しても、ソフトバンクの金、日本のソフトバンクユーザーの資金である。ある程度の所で再建できる見通しでいるだろうが、駄目でも最悪日本政府が補填すればいい。

 銀行にとっても、総務省が音頭を取って、つまり最悪政府が尻拭いしてくれる融資先なのだ。巨額すぎて潰せない企業というのが存在するが、おそらく今回の買収でソフトバンクは日米両政府から配慮される存在になりおおせたといえる。ソフトバンクの経営が仮に行き詰っても、総務省的にはプラチナバンドを軸にした事業再生が可能だと判断しているのだろう。ソフトバンクに与えたプラチナバンドは、ある種の担保であり、孫正義が使いこなせなくても、その後継者ないし再建人が使いこなせばよいのである。

 そう考えると、私は孫正義はだいぶ大きなギャンブルに出たなと思う。両国政府が配慮するといってもそれは当初のことであって、行き詰ればさっさと回収にかかり、別の人間に事業再生をゆだねるだろう。孫正義という、型破りの経営者がまず選ばれたのは、駄目でも代わりになる堅実な候補者がいるからではないだろうか。

 JALを再生させた稲森和夫が果たした役割は大きい。おそらくそれは、政府の配慮があれば巨大企業も再建できるという確信だ。ANAのような企業は割を食ってしまうが、巨額の赤字を垂れ流すのとどちらが健全か、答えはおのずと明らかだろう。

 株価に関しては全く分からない。おそらくSprintによる赤字が織り込まれ、下落せざるを得ないと思う。一時的に上がるときがあっても、相場的には下げ基調になるのではないだろうか。Sprint買収は少なくとも日本の既存ユーザーに恩恵はなさそうである。屋内の設備投資についてはさらに悪化しても不思議ではない。

 これは総務省的にきっと良いことなのだ。現状でおそらく国内大手三社の勢力図は固定する。ドコモは今までiPhoneを発売してこなかった。ドコモが条件を飲まなかったことが最大の理由とされるが、その背景にはもしかしてトップ企業への監督省庁からの制約もあったのかもしれない。ドコモが次のiPhoneを発売し、完全に3社横並びになっても不思議ではなくなったと思う。iPhoneは別にして、ドコモが反撃するとすればこのタイミングしかない。何らかの大きな動きがあると思う。

 正式な記者発表を経てみないとわからないが、今回の話は、日本企業による米国企業再建のテストケースであり、今後そのような事例が続くかもしれない。銀行の再建もまぁ無くはなかったが、恐らく今後はこのような例が他の業種でも出るのではないかと感じる。

 私の読みでは、ソフトバンクはかなり苦しむことになる。株は、買わないほうがいいのではないか。この後伸びる可能性があるとすれば、それはドコモだ、と思う。孫正義の成功により、ソフトバンクモバイルが大いにその価値をあげる可能性は勿論ある。ただ、思い切り株価が下がってからでなければ買わないほうがいいだろう。赤字が問題視されれば、おそらく株価は下がらずにはすまないし、米国政府の動向によって大きく乱高下するようになってしまうのではないか。まぁそれが、相場師にとっては格好の勝負どころなのかもしれないが。

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