集英社のiPadアプリが登場した模様。「2011年1月6日発売号が115円で販売されて」いるらしい。500円のものが115円なのでお手軽感は強い。ジャンプ本誌ではない為、2軍なのか3軍なのか集英社的な位置づけは不明だが、大きくかじを切ったことは評価したい。おそらく書店に廻る数も多くない雑誌で、書店での売れ行きの減速の程度と、アプリでの収益を両天秤にかけて今後とるべき戦略の参考にするのだろう。
大手出版社として積極的で、かつ、手堅い戦略だと思う。まず、AppleのiPadで出してきたのも好印象だ。このブログでは、分析という名のもとに勝手放題色々書いてみたい。
今回の集英社の戦略はアリだと思うのだが、戦略が色々みてとれる。
1)書店での販売数の限られる雑誌のアプリ販売
2)2~3軍的位置づけの雑誌のアプリ化による受け皿の多様化
3)リリースタイミングのズレによる雑誌の優位性確保
4)低価格と入手性によるアプリ版の利便性確保
5)収益構造の多様化
6)コストの削減(バックナンバー管理や在庫減)
7)ジャンプ本誌の電脳化にあたっての交渉材料の確保
8)漫画のWEB配信は、コミックより雑誌が主流の時代へ
1)書店での販売数の限られる雑誌のアプリ販売
1)については、現在の漫画雑誌数が多い少ないの話があるのだが、
書店に物理的展示スペースには限界があるわけで、書店の倉庫にも限界がある。
Amazonの数ある成功理由の一つは、ロングテール、ニッチな商品を
多数取り揃えている事だと言われているが、現在の書店ではその真逆で、
なかなかニッチな商品は置かれない。置かれても数は出ない。
結果として、ベストセラーだけが並ぶ代わり映えしない店が多くなる。
買いに来ても(売り切れや未入荷で)買えなかったという機会損失は
発生している筈なので、その機会損失が低減するだけでも効果はある。
コミック(単行本)は取り寄せで購入する価値はあるが、月刊誌は
余程熱心な読者でなければその可能性は低い。この為、雑誌のほうが、
この種の問題が発生している。アプリ化は、上記の問題の回答になり得る。
書店の側にたっても、おそらく主力の商品ではない筈なので、ある程度整理
される方が望ましい。各社アプリで競争してもらって、人気がある月刊誌だけ
大量に店頭に並べる方が、書店としても出版社としても損をしない所だと思う。
そういう意味で、今回はクレバーなやり方だ。
2)2~3軍的位置づけの雑誌のアプリ化による受け皿の多様化
2)は1)の延長線にあるのだが、バクマン。なんかでも語られているように
2軍3軍的な位置づけの雑誌は重要なのである。そして漫画はやはり、
読者に読まれてこそ真価がわかるので、発表の場がいる。
しかし売れない雑誌を刊行してもコスト増で廃刊になってしまうだけだし
肝心の売れ行きが伸び悩む。おそらく出版コストについては赤字でなければ
問題なく、収益は人気作の単行本化で賄っているのではないかと思う。
ややこしいのは、雑誌で連載してコミック化して、コミックが売れれば儲かる図式だ。
雑誌は出版して広く世間に認知されねばならないが、それだけでは儲からない。
繰り返すが、雑誌は単に雑誌を売るだけではさして儲からないはずだ。
特に発行部数の限られる雑誌の存在理由は、連剤コミックの販売による収益が主だろう。
連載する場を維持しつつ、コミック化につなげるために、アプリで補完する方が、
雑誌単体での収益も読者数も稼げると判断したはずだ。
ちなみに月刊であっても連載させる方が、忘れ去られず、
その作品の人気を維持させる効果があるんだと思う、推測だが。
月刊誌は読んでいるけれど捨てて、好きな作品のコミックを買う層。
そのようなファン読者層の新規開拓と拡大を狙っているのだろうと思う。
月刊誌自体漫画の詰め合わせで、その中からほしい漫画を
チョイスしてもらうという性質があるので、安ければ
そういうコミックを買ってくれる読者層の開拓に繋がる。
2~3軍の漫画は王道というよりは、ブレイクする可能性を秘めているが
どちらかといえばニッチな人気を誇る漫画だろうし、そういうニッチな需要は
前述の通りWEBの網羅性と親和性が高い。
3)リリースタイミングのズレによる雑誌の優位性確保
3)については、書店対策という意味合いがまず大きい。
SONYのようにDL配信化を一気に進めて小売の反感を買っても意味はない。
現物があること、付録が付けられることなど、書店販売の雑誌の価値は高いが、
時間的な優位性を付け加えることで、その差を明確にした。
書店にしてみれば今までと何も変わらない対応でいいので楽でもある。
しかしこれは次に書く、4)の伏線でもある。
余談だがSONYというのは本当に日本企業にはありえないくらい革新的で
垣根を超えていく会社で、よく失敗も挫折もするが、その失敗から得られる教訓は
とてつもなくデカイ会社である。自己分析できず、漁夫の利を得させてしまうのが気の毒だけれど。
4)低価格と入手性によるアプリ版の利便性確保
4)については3)と連動するが、単純に考えれば書店で買うほうがいい。
ヘビーユーザーならスキャンもできるし、カラーは印刷ページのほうがきれいで、
月刊誌はそもそも紙質が週刊誌より優れている場合も多い。
(今回のジャンプスクエアの紙質については知らないが。)
オマケが付いてる場合もあると思う。
私は送ったことがないが、アンケートハガキは重要らしいし。
アンケート機能がつくかどうかは不明だが、
アプリにつけばそれはそれで面白い。
ともあれ、価格が同じなら現物を買うのだ。
そして、中身で差別化しようとすると書店(小売)を敵にまわす。
だから、価格を下げて広く浅く売れるようにした上で、
リリースタイミングを遅らせることで書店の優位性を明確にした。
あくまでも新規層の開拓が目標ということを自他共に明確にしたので、
読者にも書店にも鮮明に打ち出せた素晴らしい戦略だと思う。
5)収益構造の多様化
5)については、正直やってみないとわからない部分はあるのだと思う。
ただ多様化について言えば、こんな喩えができるとおもう。
現在は、サラリーマンとして会社からの収入で食っている状態であると。
会社が順調ならそれで何の不満もないが、日本の景気も悪く、
業界的にも会社の大幅な成長は見込めないし、業績も悪い。
一生この業界で食っていくのは大変そうだし、貧乏な思いも
理不尽な思いも味わいそうである。今の生活を維持するのも厳しい。
そこで副業を始めることにした。もちろん当たるかどうか分からないし、
どの程度の収入になるか皆目見当がつかない。
しかし会社の収入は残業規制もあって、毎月ほぼ変わらない。
1万でも2万でも追加の収入があれば、家計は大いに助かる。
それにこの副業は、発展性が見込め、うまくいけば本業以上の
収入になる上に、広く世界に開かれた仕事である。本業である
会社を刺激しないやり方で始めれば、最初は乏しい副業の収入も
本業以上に伸びてくれるかもしれない。
うまくいけば年収2倍だし、本業がこけても悠々生活ができる、と。
多様化というのは、多分そういう発想だ。後、喩えが悪かったかもしれないが、
集英社にとっては本業はあくまでも漫画雑誌を作ることなので、書店で売ろうが
WEBで売ろうが本業をおそろそかにすることにはならない。
その点では不適切な喩えだったかもしれない。
6)コストの削減(バックナンバー管理や在庫減)
月刊誌のバックナンバーや追加オーダーがどの程度か全く知識はないが、
在庫管理は楽になるだろう。住み分けによる最適化がなされるはずだ。
現実問題としては、iPadのアプリなので、非Appleユーザーは恩恵に預かれず
限定的な効果にとどまってしまうかもしれないが、アプリ化の恩恵は
将来的にはこういう所に及ぶ。
7)ジャンプ本誌の電脳化にあたっての交渉材料の確保
7)についてはデータ収集といえば分かりやすい。Appleへのマージンがいくらかも分からないし
価格の決定権についても、どちらがどれだけ口を出したのかは不明だ。
売れ行きについても、購買層の年代についても、一切合財が暗中模索だろう。
しかしながら、1年も経てば情報は出揃う。これは週刊少年ジャンプないし
他のコンテンツを電子書籍として提供する場合の判断材料になる上に
交渉材料にも成り得る。
週刊少年ジャンプについていえば、Apple陣営での提供に限らない。
Amazonのキンドルも当然選択肢に入るし、SONYの電子書籍サービスもある。
私はPSP2ともいえるNGPは電子書籍サービスを投入するのは
必至だと考えてて、その為の3Gや有機EL、スマートフォン機能だと思う。
また、Androidが成熟すればAndroidに電子書籍マーケットが形成されるかもしれないし、
日本独自の規格を、それこそ集英社等の出版社が中心となってスタートするかもしれない。
数ある選択肢の中で、最も魅力的で有利なオファーを獲得するために
情報を収集し、相手に示す自前のデータは必要なはずだ。
少年ジャンプの電子書籍としての価値は説明する必要もないが、
ファイナルアンタジー7の存在で、プレイステーションの勝利が確定したのと
同じくらいのインパクトがあると考えて良いだろう。
集英社自身もその事が分かっている為に、打てる手をビシバシと打ってきている。
8)漫画のWEB配信は、コミックより雑誌が主流の時代へ
2)の内容と被るのだが、電子書籍はコミックより雑誌のほうが親和性が高いのだろう。
コミックの電子書籍は今までもあったが、コミックを買うのと同額が割高になる傾向がある。
結果として、あまり普及していない。自炊よりメリットがある電子書籍販売は少ない。
が、雑誌について言えば、コミック販売に対する販促的なツールである上に
発行量が莫大であるがゆえに、発行元への負担も凄まじい。
ジャンプの紙質の悪さは有名だが、あれは立派な企業努力であって
いかに安く提供するかが雑誌というものの使命である。
そして雑誌は発行部数が増えれば増えるほど管理の難しさや手間がかかるが、
電子書籍は(サーバーや回線への不可を別とすれば)コストの増大はさほどでもない。
100万冊の週刊誌を保管する倉庫となると巨大で、物流のコストと時間ロスはかなりのものだが、
100万人に電子書籍を配信するサーバーと回線は、巨大ではあるだろうけれど、
コスト的には倉庫&物流より安価で、管理しやすい可能性が高い。
エコという観点もそうだが、時間的ロスは少なくなる可能性がある。
ジャンプが数日遅れで発売される地域は、珍しくない。
ジャンプ本誌なら、苦労してでも日本全国に流通させるメリットはあるが、
月刊誌では、そのメリットは薄い。集英社としては、月刊誌の意義は認めつつも、
その発行がもたらす負担を軽減させる措置を模索しても不思議はない。
ただ、大多数の既存読者は電子書籍は選ばないので、影響は限定的かもしれないし、
あくまでも電子書籍は副業的な立ち位置だろう。ただ、今回の試みがうまくいって市場が形成されれば、廃刊が取り沙汰される雑誌の場合、電子書籍化で生き残れる可能性が出てくる。
大手出版社の集英社が先鞭をつけることで、あとに続く中小出版社が動きやすくなるのは間違いない。
以上、電子書籍の大きなニュースなので勝手に書いてみた。至らぬところ、書き足りないところは多々あるかもしれないが、こう言うニュースは日々移り変わる情勢の中で人の意識も変化するので、その都度その都度、まとめて置かなければならないものではないかと思う。
今回の集英社の試みは、電子書籍配信各社を天秤にかける行為に思える。いずれ少年ジャンプが電子書籍化される時代がくるのだとしたら、楽しみで仕方がない。
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