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2011年4月26日火曜日

夢のない任天堂Wii後継機

現世代機のゲーム市場は円熟期を迎えつつある。

据え置き機を見てみると、PS3黄金期なのが分かる。象徴的なのはPortal2で、米国では嘗てのドラクエのように学校を休んで買いに行く超有名ソフトだ。PS3でもXBOX360でも発売されているが、PC版と対戦可能なのはPS3だけとなっていて、PS3が優勢な情勢だ。

詳しく述べると、発売元のValveはPCゲーム界では知らぬ者の居ないSTEAMというオンラインゲーム配信の仕組みを持っている。PCにSTEMAをインストールすれば、STEAM上でアカウントが管理され、購入したゲームをいつでもダウンロード出来るという物で、PCを買い換えても、STEAMアカウントさえあればゲームも引っ越せる。(セーブデータのオンライン保管は行わない)

STEAMで販売されるソフトは数多いし、過去作を価格改定したり、セールによって販売数を増加させることも巧みだ。今回、PS3版のPORTAL2は、PCプラットフォームのSTEAMとの対戦を実現させた。XBOX360ではそれが行われず、画質的にもPS3の方が綺麗に作られているため、PS3の優位は顕著だ。このValve、嘗ては露骨なXBOX360びいきで有名だったのだが、ここに来てPS3派にくら替えしている。かなり露骨な言動で笑えるほどだが、今のPS3の勢いを図るのに丁度いい。

今回、ここに殴りこみを掛ける形になるのが任天堂の次世代機だ。

性能に関しては、XBOX360程度で少し上回るくらい、AMD(旧ATI)のR700系GPU、CPUは3コアとなっている。Wiiに対する互換性も維持され、事実上のWiiHDとなる予定だ。ここから分かるのは、Wiiの名作ソフトの遺産と、XBOX360との性能の相似性だ。360との相似性はマルチプラットフォーム戦略上の利点となる。XBOX360からの移植のみならず、PS3とXBOX360のマルチプラットフォームソフトの中に、Wii次世代機も紛れ込ませる事が目標と言える。性能は伸び悩むかもしれないが、サードソフト不足に陥るよりマシ、というわけだ。

 なお、Wiiと互換性を維持する場合、Wiiのディスクを読めるドライブが必須となる。従来のWiiはDVDドライブを採用していたが、DVD2層でも容量不足は顕著と考えられるので、容量対策を重視すれば、blu-rayドライブを採用する可能性が高い。ただ、視聴用DVDを再生できなかったWii同様、blu-rayを再生できない可能性もある。

 しかし現時点でblu-ray採用を発表していない以上、DVDのままでいく可能性が高いだろう。blu-rayは商売敵、SONYにパテントを支払う状況なのも採用に不向きだ。blu-ray非採用の場合、大容量化にはディスクの交換や、DVDはオマケで別形態のソフト提供が不可欠となる。DVD路線で行く場合は、HDDや大容量SDCARDを採用し、本体へのインストールやアップデートを行う端末になるのかもしれない。DVDはあくまでもオマケとして、専用ROMカートリッジによる提供も考えられる。NGPもこの路線だが、専用ROMは独自性を確保できるし、将来の大容量化も見越せるし、低価格化も期待できる。任天堂は吝嗇なので、3DSでは当面2GBを最大容量としたため自滅した感があるが、大容量を確保出来ればこの路線が最適かもしれない。

この仕掛の部分がビジネスモデルとしては非常に重要なのだが、任天堂としてはゲーム機を出すことが優先されて、仕組みづくりまで想定が至っていないと感じる。詳細をつめている段階かもしれないが、まだゲームの形を作るのに手一杯なのだろう。何も考えずにDVD一辺倒なのかもしれず、もしもそうなら、本当にXBOX360並となる。HDDがなければそれ以下である。

 が、私はおそらく任天堂はまだそこまで深く踏み込んで考えていない、と思う。なんとなくDVD程度の発想しかないだろう。発表の時点でプレイアブルでなく、E3の時点でプレイアブルデモが公開されるとされるあたり、実態に先行した情報公開といった印象を拭えない。XBOX360を上回る程度の性能というのは、技術サイドから出た話ではなくて、任天堂の経営サイドから出た目標性能である可能性が高い。技術サイドがそれを実現するデモ機を製作したくらいなのが、今の状況なのではないだろか。NGPに対して、経営サイドに夢もビジョンがあると思えない、と感じてしまうと言い過ぎだろうか。ソフトの提供形態と最大容量で、任天堂の本気度、あるいはWii次世代機の成功の度合いが測定出来るのではないかと思える。大容量になればなるほど、成功の可能性は高くなる。

 が、笑えない予測として、3DSが最大容量2GBなのは、Wii次世代機が最大容量4GBだから、という可能性もある。将来的にそれぞれ倍になっても最大4GBと、最大8GB程度。それだと今後数年を戦うのは不可能でないにしても、厳しい。任天堂のコスト意識は、それを強行しそうで恐ろしい。

 任天堂はつねに過去世代のゲーム機を少し上回るくらいの次世代機を投入する。PS2に対するWiiが良い例で、今回、性能的な模倣が容易な標準的な構成に近いXBOX360を参考にしたのは当然だろう。(CELLとblu-rayを搭載したPS3はその点、変態的な構成のマシンと言えるし、CELLの生産設備はSONYが東芝から買い戻して確保しているので入手できない。)

 私の見る所(というより衆目一致するところだと思うが)、ブームが過ぎ去り業績が芳しくない任天堂は、期待の3DSも駄目だったため、3DSをテコ入れしつつもWii次世代機を発表して株価を底ざさえする必要性に駆られたのだ。商談は終えて、テスト機くらいは出来上がっていると思うが、最終的な配信の仕組みや並行して行われるはずのソフト開発はまだこれからなのだろう。それを受けて生産を開始し、2012年のおそらくは後半に発売となるはずだ。

 言い換えると、PS3は2012年までその王座が揺らがない事になる。これは現在進行しているソフト開発が引き続きPS3優位に進むことを意味している。急造したWii次世代機が立ち上がりから大作ソフトを投入できるとは考えづらい。Wii互換で嘗てのWiiの名作ソフトが売れる効果はあるだろうが、サードが本腰を入れて開発するのは2012年からである可能性が高い。ただ、XBOX360との性能の相似性から言えば、マルチプラットフォーム対象には成り得るので、それなりにソフトが出る。ただマルチプラットフォームは、どれも似たような性能でしか無い。経営戦略的に差別化が出来ていない場合、勝てる要素ではない。この辺り、任天堂ソフトの人気だけで押し切る気なのかと思えてしまう。

 今回、任天堂としては独自路線を貫かず、時代に即した、或いは、時代に迎合したゲーム機を開発しているようだ。NGPの部品採用と似た流れを感じるが、それは陳腐化が早いということも意味する。コア数では既にNGPに負けているわけで、全性能でNGPに負けるとは思わないが、何らかの付加価値をつけていかなくてはならない。

 Wiiは「SDでもまだまだ行けるんです」「ゲームの楽しさは性能じゃないんです」という強烈なメッセージがあった。それは任天堂の見せた夢でもあった。しかし、消費者がその夢からさめ、やはり性能は大事だと考えている中で、次なる任天堂なりのメッセージ性が打ち出せているようには感じられない。こんな時代だからこそ、経営にはビジョンやメッセージ性が求められる。任天堂の現在の苦境は、信者を騙せなくなった新興宗教の教祖に似ている。今のままでは、コアな信者を囲い込んでのカルト化しか出来ない訳で、もう一度広く夢を見せる強烈なメッセージ性が不可欠だと感じる。E3でそれは見られるのだろうか?

 少なくとも今感じられるのは、ポケモンやマリオを投入すれば3DSはなんとかなる、という計算だけなのである。しかしゲーム機だけに、夢を見せる商売をしないと、成長は見込めないのではないかと感じる次第だ。

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