私はロバート・レッドフォードが監督をする映画が大好きなのだけれど、今日はその中から【バガー・ヴァンスの伝説】を紹介したい。マット・デイモン、シャーリーズ・セロン、ウィル・スミスが出演しているこの映画の舞台は、1920年代末のアメリカの片田舎。第一次大戦と大恐慌の影響が色濃く浮き出る世相の中、庶民が生活に苦しむ一方で、ゴルフを嗜むような上流階級は戦前からの変わらぬ豪奢な生活を続けている。
粗筋はこうだ。
シャーリーズ・セロン演じるヒロインは、金髪美人の南部の金持ち娘。だが、父が手がけたゴルフリゾートの計画が行き詰まり、実業家の父親は自殺、独り取り残され、債権者に取り囲まれてリゾート売却をせっつかれる。この急場をしのぐ為に、持ち前のお転婆ぶりを発揮、町おこしを画策し、策謀を巡らせてライバル心を刺激して高名な二人のゴルフプレイヤーの対戦を実現させる。
2大プレイヤーの対決の舞台となる事に町も沸き立ち、地元の英雄を担ぎ出す声が高まる。ここで指名されたのがマット・デイモン演じる郷土の英雄ジュナ。名ゴルフプレイヤーだったが、第一次大戦に出征し、戦争が彼を廃人同然に追い込んでしまった。自信を喪失した彼は、地元代表を引き受けようとしない。
特筆すべきなのは、語り手がジュナの逸話を聞かされて育った町の少年であること。彼の存在が、町とジュナの絆の象徴となる。少年の父も含め、町の人は生活に困る位に困窮しているが、生活保護を潔しとせず、プライドを捨てずに生きている。少年を通じて、そんな誇りを捨てずに努力する郷土の人々の期待が自分の双肩に掛ってる事を知り、ジュナは出場を決意する。酒浸りの自分であっても、そんな自分を必要とする郷土の期待に直面して、ジュナも奮起せずにはいられなくなるのだ。
しかし戦争と酒浸りの日々によるブランクは大きい。決意は実力を伴わない。そんなジュナを助け、導く不思議な存在が、ウィル・スミスが演じるバガー・ヴァンスと名乗る謎の男。5ドルでキャディーを引き受けた彼は、ジュナの再生に大きく関わることになる。
ジュナを交えた3名で行われるゴルフ大会は熱戦を重ね、全米中に報道され、大勢の見物客が詰めかけ、この時点でゴルフリゾートと町おこしの成功は十分達成されつつあった。だが人々の願いは、いつしかジュナの優勝になっていく。それは不可能と思われていた街の再生をジュナの再生と重ねあわせ、心から失われつつあった希望やプライドを取り戻す試合になっていく。勝負の決着は終盤まで縺れ込み、観客は試合の行く末を固唾を飲んで見守るようになる。
この映画の作りは非常に丁寧で、感情移入をしやすい。ゴルフに全く興味がない私でも、美しい視線の中、夕闇の中でプレーする姿に心打たれるものを感じる。レッドフォードの映画は、アメリカの自然を優しく映しだすことに長けている。
内容は典型的なアメリカンドリーム物かもしれないし、知名度は低い。それでも、私の中では名作と評したい、熱い魂を持った映画だ。
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