先行のiPad、姿を現したGoogleのNexus 7、リリースの時を控えるWindows8と新ハードSurface。Amazonのキンドルからスタートしたかに見えるタブレット競争は、遂に全面対決の時を迎えつつあるように見える。(キンドルは電子書籍リーダーとしての位置づけとして、ここではノーカウント)
先行するiPadについていえば、3世代目に突入し、それぞれ明確な進化の特徴を残し、iOSデバイスとしては熟成してきたと感じられる。(1でタブレットの魅力、2でデュアルコアと軽量化、3で高精細さを獲得した)一方で、iOSに関しては明らかにiPhoneが主役でしかなく、iPadは脇役だったようにも見えた。iPadが達成したのは、単純なウェブブラウジング用途のライト/カジュアルユーザー層の取り込みでこれは成功したといえる。これは家庭の主婦や、重さを嫌うビジネスエグゼクティブなど、デジタルデバイスを必要としていても、デジタルデバイスにかじりつく必要がない層、情報を受けて決断する側の人間だろうと思われる。
しかし多様なiOSコンテンツの大半は、iPhone向けで、それを大画面で利用できることがiPadの魅力という側面もあった。事実、マイクロソフトのWindowsPhoneは、iPhoneのライバルにもなれない惨敗ぶりだ。iPhoneが仮に存在せず魅力を発揮しない状態なら、iPadの売れ行きは今より低いだろう。(アップルがその全力をiPadに向けて振り当てていたら逆の結果になるかもしれないが)
個人的には、iPad1&2は利用してきたが、iPad3(新しいiPad:2012)は不要と感じた。高精細モデルのメリットは理解できるが、コンテンツが拡充するのは次回以降と判断した。現時点では、定価が引き下げられたiPad2のほうが対費用効果は高いと考えている。iPad4の全体像は不明だが、魅力ある提案がなされるなら購入を検討してもいいレベルだろう。だが、そうはならない気がする。競合による低価格化も問題になるであろうからだ。事実、iPadの定価はじりじり引き下げられている。
不満なのはアンドロイド陣営だ。数ある中華メーカー製アンドロイドタブレットもそうだが、SONYや東芝といったモデルの製品も全くと言っていいほど売れていない。購入した人間は物好きといっていいレベルの惨敗ぶりで、ドコモが大企業向けに営業をかけたであろうギャラクシータブレットが多少なりとも売れた事例かもしれないが、サムスンのギャラクシー自体がアップルのコピー品であるとして係争中で、正に笑うしかない状況だ。
明るい材料は少なく、タブレットにおけるアンドロイド陣営は総じて安かろう悪かろうの陣営といえる。SONY製品などの高級品もあるが売れにくい。スマートフォンやタブレットといった進化の早い業態に日本の大手家電メーカーが対応しきれていないのがよくわかる。PCだと事情は異なり、従来モデルを最新チップセットやCPUに対応させることはできるようになってきた。結局この辺り、販売実績がなければメーカー側の研究も進まないし、チップの提供側の恩恵度合いも少ないし、販売予測も立たないというジレンマがあるのだろう。
SONYのVAIOや東芝のダイナブック、富士通のLIFEBOOKならIvy搭載モデルをリリースしてくる。それは、一定のシェアを持っていてそれを維持する努力に繋がるからだ。過去の投資や努力を無駄にしないための努力の延長線上である。
タブレットはむしろノウハウを蓄積する取り組み段階の話だし、これといった売れる形が決まっていない。SONYのタブレット販売は馬鹿な決定以外の何物でもなかった。SONYに同情できるとすれば、あそこで作成しなければ、たとえば提供するチップメーカーとの取引を開始しないと今後の参入に支障が出る状態だったのかもしれないし、もっと言えば、売れればGOOGLEのパートナーに選定されいたのかもしれない。
Nexus 7は台湾のASUS製造で違和感のないパートナーだが、SONYはGoogleTVでパートナーだった。タブレットにおいてSONYがパートナーでも全くおかしくなかったとは言える。歴史的にソフトに弱いSONYにとって、アップルに対抗するうえではGOOGLEと組むアドバンテージはかなりある。
問題はなぜ、GOOGLE TVが失敗したかだが、これは実機を触ったことがないのでよくはわからない。察するに、欧米での景気低迷が背景としては大きく、購買力が低下している中に高価なテレビの買い替えが進まなかったのだろう。SONYは第二弾としてはより安価な外付けモデルのメディアプレイヤー型を中心に据える見込みのようだ。が、肝心のGOOGLEがNexus Qを似たような性能で同じ価格帯で提供することになってしまった。ゲーム事業も不振といわれるSONYだが、GOOGLE関連製品に関する不調はゲームビジネス以上に酷い。期待はあったのだが、GOOGEL的にはSONYのと過去のプロジェクトは失敗扱いといっていいと思う。
で、Nexus 7について興味深いのは、iPadとSurfaceが全面対決するであろう10インチを避け、昨今主流になりつつある7インチモデルを選択したことだ。iPadも7インチモデルを出すと噂されており、携行性と視認性のバランスが良いのが7インチモデルと言われ始めている。端的に言えば、携帯端末の大画面モデルが7インチモデルの扱いであり、PCの置き換えデバイスが10インチモデルである。(携帯電話は大画面モデルでも4インチくらいが目安となる)
7インチのアンドロイドタブレット自体は(いわゆる中華タブレットで)200ドルの似た価格帯で誕生しており、後追いといえるかもしれない。が、かなりiPad的な売り方、GooglePLAYと連携した売り方を目指しているように感じられた。中華パッドに対する最大の不満点が、正規のアプリに対するサポートの程度だったと個人的には考えていた。200ドルという価格も含め、従来の中華モデルを一掃しうる魅力がある。性能で対抗するのは容易ではなく、従来の中華パッドは値崩れするのではないだろうか。
ただソフトウェア的な魅力については疑問だ。どのデバイスもそうなのだが、電子書籍なりPC置き換えなりの決定打足りえていない。高性能なTegraプロセッサにしたところで、機能を生かしきるキラーコンテンツがあるとは言えない。私は日本で発売されれば間違いなく買う、が、値段が高価でも売れる魅力のあるiPadには勝てないだろう。中華パッドに勝てたとしても、iPadに買って巨大な市場を開拓できなければ意味がないのだが・・・・。特に最近、Googleはアプリの発展性が今一つに感じられて仕方がない。本業はそちらであるはずなのだが、現時点でGOOGLEの採算ラインがどこにあるかが見えにくい。
しかもNexus QはAPPLE TVと同じコンセプトの製品だ。後発でより高価な製品になるが、本気で売れると考えているのだろうか? 悪い製品や戦略とは思えないが、収益性については疑問だ。市場の落胆による株価低迷を避ける程度の取り組みなのかもしれないし、低価格デバイス(あるいは無料ソフト)で切り込んで市場占有を狙う、これが既定方針どおりなのかもしれない。
さて、Surfaceについて言えば期待したものと違っていた。良くも悪くも、iPhoneに対するWindowsPhoneに見えてしまう。キーボードをつけること自体は悪い判断ではないと思うが、それしか売りがないのは間違っている。おそらく、多数の消費者が期待しているのはWindowsのアプリが動くタブレットである。その点についてマイクロソフトは何も担保していない、現時点では、今後Windows8用に開発されたアプリは動きますよ、という戦略なのだろうが、ユーザーが求めているのは過去10年のWindowsソフトウェアをタブレットで動かすことに違いないという気がする。これは従来の業務をタブレットで行えるようになることとイコールかもしれないのだが、到達するためのハードルは高いのだろう。全ては実機が出ないとわからないが。
全体的に見てタブレットは混迷している。今の時点で決着がつくはずがないのだが、今回の勝ちはiPhone5で間違いないと思う。なぜかと言われても困るのだが、iPadというのは壮大なデコイだった気がしてならない。
私が言いたいのは、iPadに魅力がないという事ではない。魅力的でなければデコイにはならない。問題なのは、携帯電話ビジネスにおいて明確な勝者は現状iPhoneであり、それが5へ受け継がれるということだ。初代iPadは2010年4月に発売された。iPhone4が発売されたのは同年6月である。iPhone3GSは一定の成功を収めたモデルと思うが、iPhone4が達成した高精細化やA4プロセッサへの集積化に比べるとその存在も売れ行きもかすんで見える。
iPad自体の取り込みの成功失敗は問題ではない。何かすごいインパクトを与える製品のリリース、未来を感じさせ、話題を呼ぶ製品の存在を(誰もが必要とする携帯電話という)主力製品の直前に持ってきたこと。これが過去のアップルの戦略の本質であるといえる。iPhoneはアップルの製品としては4で一皮むけ、4Sのsiriと今も成長し続けている。同じだけの労力をiPadに投じているとは、とても私には信じられない。
これは結果論ではなく、アップルとしては意図的に行ったことだ。その後のアップルのiPadへの取り組みがそれを如実に物語っているように思える。どこで金を稼いでいるかが、その企業が何に投資するかに繋がる。iPadは自社のブランド価値向上のデモンストレーションと、ライバルの開発の方向性に影響を与えるイニシアティブの面で最高の結果をたたき出したと評価されるに違いない。だが、主力は携帯電話事業なのである。iPadはiOS事業でのおまけにしか過ぎない。
iPadは現状、DSに対するDSLLのようなもの。iPhoneの影でしかない。私はそれが不満だったが、アップルとしてはiPadにデコイ以上の役割を与えるつもりはないのだろう。しかしそれが、PC市場におけるマイクロソフトの存在や、ソフトウェア市場におけるグーグルの戦略に大きな影響を与え、競争のフィールドへと引きずりおろすことに成功したのだから大したものである。自らの市場を自らに破壊させる、これこそがアップルの成功として将来語られることになるだろう。
たとえば、グーグルは従来より強くiPad模倣の製品を出した。泥沼化で最もブランドイメージを傷つけることになり、勝ちは狙えないだろう。マイクロソフトはさらに悪いことに、従来のルールを超えて自社ハードを製造してしまった。ゲーム機や携帯とは異なる、きわめてPCに近い市場においてだ。これが、従来のPC製造パートナーに与えた衝撃は大きく、Windows時代が大きく揺らぐ事態に繋がるかもしれない。
タブレットの勝者はきっと判然としない。泥沼であればあるほど、iPadの勝利だろうとはいえるかもしれないが、200ドルで普及台数も携帯未満であれば、その倍以上の価値を持つiPhone5でコンテンツを売りまくるアップルが真の勝利者であることは誰も否定できなくなるだろう。しかもタブレット市場とは異なり、iPhoneは安売り競争に巻き込まれていない。
iPhone5は、siri以上に売れるための仕掛けをアップルが投入し、他社をさらに突き放すはずだ。それはiPadがハードウェアでの取り組みでしかないために可能な、アップルの全力投球の製品だからである。きっと、iPhone5は全世界で今以上に売れる製品だろうし、価値も毀損しないに違いない。なぜならライバルたちは、デコイのほうに食いついたと世界に公言してしまったのだから。
Nexus 7、Surface、iPadの3者で勝つのはだれか? iPhone5がすべて持っていく、それが私の結論である。このロジックは卑怯に思えるかもしれないが、実際にアップルが行っているのはそんな取組なのである。